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- ベンガンとは
ベンガン(漢字で書くと鞭杆)は、中国武術の一種です。
中国武術と言うと、太極拳や蟷螂拳(とうろうけん)、八卦掌(はっけしょう)といった名前をお聞きになったことがあるのではないでしょうか。
わたしたちが練習している教室で最初に学ぶ套路(とうろ、と読みます。型のことです)は、棒を動かしながら太極拳のように動きます。
どんな動きをするか、まずは次の動画をご覧ください。
ゆったりとした速さで、ていねいに棒を動かします。
棒の長さは、地面からみぞおちまでの長さです。
もともと「ベンガン(鞭杆)」とは中国で羊飼いが使っていた棒(先端に鞭[ムチ]が付いていた)のことでした。杖代わりにしたり、身を守るための武器とするなど、生活の中でさまざまに活用されていく中で発展を重ね、現在では中国武術の武器術の一つとして知られています。
われわれ(鞭杆協会)が紹介しているベンガンの元は、形意拳に伝わるベンガンです。
次の動画の30秒くらいから形意鞭杆の動きの一端を見ることができます。
ベンガンを持って身体を動かすことにより、普通に運動することとは違った体の動きや運動効果を得ることができます。その効果・効用が広く認められ、今では中国の国家体育委員会によって学校教育における指定科目の一つとしても認められています。
鞭杆(ベンガン)という木の棒を持って運動することで、以下のような効果が得られると考えています(科学的根拠に基づく報告はまだありませんので、あらかじめご承知ください)。
手だけを使って棒を動かしているように見える動作でも、実際には、身体の広い範囲に関係し、影響を与えています。
特に、肩関節まわりには、徒手のエクササイズより多くの刺激を与えることができるようです。
また、経験的には、武器術が徒手の格闘術に密接に関連していることが知られています。
すなわち、武器術を学ぶことで、身体技法を深めることができると考えられています。
すでに太極拳や他の武術を練習している方にも鞭杆(ベンガン)をお勧めします。
ベンガン(鞭杆)は、中国の北方に伝わる武術のひとつです。
山西(さんせい)省、陜西(きょうせい)省、甘粛(かんしゅく)省、青海省などの地域で伝承されてきました。
日本ではあまりなじみのない地名ですが、これらの地域では古くから文明が発達しており、なかでも山西省は経済的にも軍事的にも重要な地位を占めていました。
北方謙三の歴史小説『楊家将』(第38回吉川英治文学賞受賞作品)の主役である楊一族が活躍していた土地と言えば、日本人にはイメージしやすいでしょうか。
テレビでもしばしば取り上げられる世界遺産、山西省晋中(しんちゅう)市の平遥古城(へいよう・こじょう)は、古くは中国の商業の中心地でした。
(参考:日中経済発展交流会サイト/中国紹介/西部/山西省:http://chapan.com/index.php?option=com_content&view=article&id=11)
ベンガン(鞭杆)は、その山西省の北方よりの代県・繁峙(はんじ)県・五台県一帯で特によく伝承されてきました。
この地域では、古い歴史を有する伝統の武術が数あるなかでも鞭杆が広く愛好され、代々伝承される過程で、幾多の名人・達人を生み出しました。
これら三県の境界には山地高原が接しています。
主産業は農業で、多くの特産品があります。五台県県内の党参(とうじん、漢方薬)、きのこ、代県の煙草の葉、唐がらし、繁峙県のキバナオウギ(漢方薬)、にんにく、甘草(かんぞう、漢方薬)などです。
そうした産品が外地でも知られるようになると、交易が発展します。
しかし、この地域の山並みは幾重にも重なり、丘陵は起伏に富み、交通は不便を極め、道はでこぼこで狭く、輸送する物資は人が担ぐか家畜に背負わせるかであり、遠方との交易では驢馬(ロバ)、騾馬(ラバ)、駱駝(ラクダ)などの大型家畜が主要な輸送手段となりました。
そのため、鞭杆・鞭(ムチ)・長い煙管(きせる)棒などが、当地の人たちが家畜を操るための道具として使われ、さらに荷を肩に担ぐのに使ったり、杖代わりにしたり、身を守るための武器とするなど、さまざまに活用されました。
こうしてこの地の人びとの生活に欠かせない道具(ツール)となった“鞭杆”(ベンガン)は、武術各流派(形意拳や通背拳など)の武器術の体系に取り入れられていき、長い年月の間に歴代の武術家、僧侶、民間人の工夫が加えられ、技撃技巧の成果が集大成されてきました。
健身効果および技撃性を併せ持ち、技術内容が豊富で風格も独特な武術としての鞭杆技法は、このような歴史的・文化的背景から発展してきたのです。